社内コミュニケーションを最適化できる「社内ポータルサイトの作り方(プロジェクト体制・推進方法)」を、前・中・後編にわけ解説しています。
前編では、 ITツール導入における「利用範囲」と「プロジェクト型」の関係、社内ポータルサイトの構築に適している「協創プロジェクト」の推進方法などについて紹介しました。中編となる今回の記事では、これまでのプロジェクト参加経験をもとに、「協創プロジェクト」における最適な導入ステップ、チームビルティングからサービスインに至るまでの流れと具体的な実践方法を紹介します。
社内ポータルサイトの作り方前編:成功に導く「協創プロジェクト」とは >
社内ポータルサイトの作り方後編:運用設計で良質なコンテンツを発信し続ける「仕組み」づくり >

チームビルディング

プロジェクトのスタートはチームビルディングからです。メンバーが One Team にならないと本気の検討が深まらないため、はじめに心をひとつにするチームビルディングを重要視します。全社ポータルは利用範囲が広いためプロジェクト関係者も多く、経営企画・広報・人事・情報システム・営業・・・など総勢20名超えもざらです。部門をまたぐと同じ会社とはいえ初対面のメンバーが多くなる場合が増えます。チームビルディングでメンバー間のよそよそしさを取り除き心理的安全性を確保することで、各自の当事者意識とプロジェクトへのワクワク感を醸成します。

以下は、日立物流様での全社ポータル導入プロジェクトでの風景です。
チームビルディング

チームビルディングでは、2段階のステップを意識します。

ステップ1:チームの中心となる軸を作る

自己紹介の時間をたっぷりとり、そのなかで「プロジェクトへの意気込み宣言」をしてもらいます。宣言をしてもらうことでコミットメント=当事者意識を奮起させ、プロジェクトへの参画度合いが俄然高まります。その後にメンバー全員がどのような心構えでプロジェクトに臨むかを「グランドルール」として定めます(上図のグランドルールは日立物流様で全社ポータル導入時に実際に打ち出したものです)。加えて独自の「コードネーム」と「キャラクターイラスト」を考え、徹底してチームの色を作り出すことによって、プロジェクトの目的とメンバーが一心同体となる軸作りをします。

ステップ2:オープンでフラットな議論の土台を作る

ドラムサークルなどのチームビルディング・アクティビティがここでは欠かせません。これらのアクティビティは「特殊な経験を一緒に体感する」ことで、業務上のしがらみや役職・役割を越え、仲間同士という感覚を高め、オープンでフラットな議論の土台を作ります。そしてときには懇親会でお酒を酌み交わし、お互いの団結をさらに強固にします。

ポータルデザイン

チームビルディングでプロジェクトメンバーの団結を強め、やる気を高めたら、具体的なポータルデザインのフェーズに移ります。

ステップ1:アイデア出し

ポータルデザインではまず、アイデア出しを進めます。ドリーム・アーツが提案するポータル構築では、ここを最も重要視し一番時間をかけます。

アイデア出し

おもむろにシステム課題にターゲットを絞らずに、「10年先を見据えた社内の情報とコミュニケーションの姿」のような抽象度の高いテーマ設定をおこない、理想や課題、課題解決を実現する方法(システム、アナログな方法問わず)など、一旦思い切り出し尽くしてもらいます。大体の方々が「システムに関する課題だけじゃなくて良いの?」と心配されますが、いいのです。

なぜなら

  1.  メンバーがシステム担当ではないのでプロジェクト対象範囲の共通認識がない
  2.  対象を絞りすぎるとアイデアが出しにくい
  3.  制限をかけずに不満を吐き出すとスッキリして後の議論が前向きになる

からです。

ただし、日ごろからアイデア出しに長けた人は少ないので、この段階で全メンバーから満遍なくアイデアを出し尽くしてもらうのはファシリテーターの腕次第です。

面白いことに、それぞれ違う部門から集ったメンバーでもアイデアを見ていくと多くの共通点が見えてきます。このような考える過程を通してさらにチームの一体感が高まり、モノ作りとコト起こしの機運が高まってくることを体感します。

ステップ2:プロトタイプを作る

それぞれのメンバーの出し合ったアイデアは、初期の段階ではまだ曖昧でばらつきのある抽象的なイメージでしかありませんが、それを徐々に具体的な形と機能に昇華させていきます。そのひとつがプロトタイプです。

プロトタイプ

アイデア出しの後半にプロトタイプを作るかのように思われますが、かなり早い前半の段階でプロトタイプを作り始めます。これもメンバーがシステム担当ではない点と、自分たちの手作り作品の完成イメージを早々に捉えてもらうことで、さらにアイデアがヒートアップしていくことを期待して行います。

ただし、あまり具体的すぎるプロトタイプはマイナス効果にも繋がります。なぜならもう完成してしまったと勘違いして、プロジェクトの勢いがスローダウンするためです。抽象的すぎず具体的すぎない、ほどよい程度感のプロトタイプを都度変更を加えて進化させていきます。

プロトタイプに現場の声を正確かつスピーディに反映するためには現場部門(非IT部門)主体で社内ポータルサイトを構築できる必要があります。ドリーム・アーツが提供するInsuiteXでは現場部門(非IT部門)だけで社内ポータルサイトを簡単に構築できるので気になる方はぜひこちらもご覧ください。

テストマーケティング

ポータルの形が具体的になって来たタイミングで、ブラッシュアップしたプロトタイプを元にプロジェクトメンバー以外の反応を探ります。これがテストマーケティングです。全社員ではなく100人未満の試験者に協力を依頼します。プロジェクトの目的を説明したうえでポータルのテスト環境を利用してもらい「新ポータルの改善予測判定」で定量評価してもらいます。この結果を受けてより良くできる箇所の特定や本番環境の構築に向けてのポイントを検討します。

テストマーケティング

ここまでの「目線の高いテーマ設定」、「徹底したアイデア出し」、「深い議論」を重ねて来た結果がほかの社員の共感を呼び、新たなコミュニケーションの場として良いスタートを切れる手応えを感じ取れます。

プロモーション

テストマーケティングを経たころには、メンバーが新ポータルを「自分たちの作品」として自信を持つようになります。次のフェーズでは、プロモーションを全社展開します。これはサービスインの3ヵ月前ぐらいから予告を出して、徐々に期待を盛り上げていく「新作映画予告風」に進めます。初めは概略しか告知せず、段々と具体的になるようにチラ見せして、社内の関心度を高めていき「知らない人はいない」という状態まで引きあげます。

以下は、日立物流様の全社ポータルプロジェクトでの実際のプロモーションコンテンツです。
プロモーション

システム導入の大型プロジェクトでは、社内へのインパクトも高くなります。特にポータルは社員が勤務はじめに必ず通過する場所になるので、ここがガラッと変わるということは「本社ビルの建て直し」と同じインパクトを持ちます。業務の基盤となるメール/チャット・スケジュール、業務ごとの各種システムリンク、会社の公式情報の掲載など、実務に欠かせない情報が集約されている場所が大幅に変わるということは社員にとってかなりのストレスになり、うまく伝わっていないと生産性の低下になります。

具体的にプロモーションする内容は次ように多岐に渡るので、一気に伝えるよりも何回かに分けてアナウンスを続け、時間をかけて浸透させます。

プロモーションで発信すべき内容

  • 経営層お墨付きの重要施策であること
  • 情報共有とコミュニケーションの改善効果のアピール
  • 具体的な使い方・トレーニングコンテンツ
  • 本格的リリース前のプレリリース期間
  • 旧システムと新システムの移行と切替の計画説明
  • 困ったときのQ&A方法・受付窓口

そして全社サービスインの当日は、トラブルが起きないようにサポート体制を万全に組んで、8時、9時、10時と、社員がログインしていく様子を固唾を飲んで見守ります。ここまでの万全の準備により、まずトラブルは起きないので、当日の昼ごろにはプロジェクトメンバーはほっとした気持ちと大きな達成感を得ることになります。

サービスインは重要なマイルストーンですがポータルが生まれた瞬間であり、ここからのポータル運用と社員による活用をうまく噛み合わせ半年ぐらいかけて成長を遂げて1st Successに到達します。

<後編 運用設計 につづく>

日立物流様ご講演「Climbers 2021 -秋-」

日立物流様ご講演「Climbers 2021 -秋-」

日立物流様が「協創プロジェクト」で全社ポータルを実現した際に感じたことを 熱く語ってくださいました。ぜひ併せてご覧ください。

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執筆者
栗木 楽(くりき らく)
株式会社ドリーム・アーツ 協創パートナー推進本部 副本部長

大企業コミュニケーションのReデザインを得意とし、数万人の企業のコミュニケーション改革プロジェクトの推進役を多数経験。お客さまプロジェクトではさまざまな部門からの多彩なメンバーと一緒に、部門間・階層間のタコツボ化解消に真正面から取り組んでいる。日本企業の底力を上げるために、実践知を活かして組織開発とITの融合でアプローチする。